ピペド終了のお知らせ。科学実験用ロボットに代替される肉体労働型の生物学系大学院生は死ね。そして甦れ。
「ピペド」というネットスラングがありまして。
ピペドは社会的にも、生物学的にも、あるいは経済的にも死にかけているのですが、ロボットによって完全に葬り去られる日が来るかもしれない。
“本物の”ロボットによって。
ピペット奴隷
生物学系の実験で用いられる、超微量の液体を、きわめて正確に採取できる「(マイクロ)ピペット」。
これを使って何十回、何百回、いや何千回、何万回と試験液を吸っては吐き、吸っては吐きを繰り返します。
またコンタミネーション(異物混入)を防ぐ目的から、吸い取り部の先端には使い捨てのチップが取り付けられますが…
バラで購入したチップをケースに収めて滅菌処理(オートクレーブ)するという実作業もまた、吸い上げ回数に応じて何万個も必要になってきます。これを、全て手作業でやらなければなりません。
こうした「作業」は、生物学的実験の本質とはまるで関係がありません。「作業」です。「実験」ではなく。
さらに悪いことに、生物学系の研究室に配属された大学生や大学院生の多くは指導教官(教授や准教授、助教授、年上のポスドクなど)の指示に従って…というか、彼らの「実験」を完遂するための「作業」に従事することになります。
言われたことを手早く、正確にこなす作業マシーンにならねばなりません。
もちろん実験が成功するか否かはやってみなくてはわかりません(だからこそ「実験」だと言える)。つまり、学生にとっては何がしかの確率論的報酬の、そのおこぼれをもらうための「作業」になります。
また将来を考えれば、その報酬(論文発表時に著者名として掲載されるなど)は職を得たり奨学金を得たりするための非常に重要な要件となっている為、否が応でも従わざるを得ない。
作業マシーンの物言いは、穏当すぎたかもしれません。
実に、この、奴隷的状態を「ピペット奴隷」あるいは「ピペット土方」揶揄し、「ピペド」と卑下して称すことと相成った訳です。
さらに悪いことに、博士と呼ばれる一人前風の学位は研究の世界における「タマゴ」としかみなされず、ポスドク(学位取得後の非正規研究職)として更なる修行を積まねばなりません。それも、数少ない正規職員の座を求めて、圧倒的業績を残すべく。
生物学系の大学院生やポスドクに創造的な発想は要求されません。黙してデータを生み出し続ける奴隷でさえあればいいのですから。
ロボット化の波
しかしここにきて、潮流は変わってしまいました。
作業効率、正確性を考えれば人間がロボットに敵う訳がないのです。
もちろん研究費が潤沢にある研究室は少数で、ロボットを導入できるところとなれば非常に限られるでしょう。しかしながら資金不足の研究室における生産性を考えれば、圧倒的なトロさによって駆逐されてしまうしかありません。
現実的な解としては、大学単位、学部単位などの大きなくくりで共用の施設をつくる事でしょうか。
ロボットができることはロボットに。人にしかできないこと(なんてものがあれば)、人に。
大学院生や若手博士の脳みそパワーは、入れる液量やプレートの穴を間違えないための注意力に浪費すべきじゃないのです。絶対に。
文字通りの作業ロボットが普及すれば。もちろん現在、将来に不安を覚えつつも何とかピペドとして生きていける人も居場所を失うでしょうが、使い捨てられるためだけに労働力を提供し続けるよりはマシでしょう。
だから、もう死ねよ、と。殺されてしまう前に。
そんでもって、別に活躍の場を求めましょうよと。
ピペットを握り続けた数年間の努力が、データを“望ましい&それらしい形”に加工する技術が、社会的にはあまり役立たないことに心折られながらも、それでも今の内にそのレールから抜け出すべきじゃないかと。